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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)950号 判決

呼称

控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

氏名又は名称

アイリスオーヤマ株式会社

住所又は居所

宮城県仙台市青葉区五橋二丁目一二番一号

代理人弁護士

伊藤真

代理人弁護士

藤山利行

輔佐人弁理士

福迫眞一

呼称

被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)

氏名又は名称

株式会社久宝プラスチック製作所

住所又は居所

大阪府守口市大日三丁目三一番六号

代理人弁護士

浅沼晃

代理人弁護士

鍛治川善英

輔佐人弁理士

中村恒久

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  本件附帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用(附帯控訴費用を含む)は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴の趣旨

1  主文第一・二項と同旨

2  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

二  附帯控訴の趣旨

1  控訴人は被控訴人に対し、六〇〇〇万円及びこれに対する平成九年八月二〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え一当審における請求の追加)。

2  附帯控訴費用は控訴人の負担とする。

3  仮執行宣言

第二  事案の概要

(以下、控訴人を「被告」・被控訴人を「原告」と略称する。)

本件は、物干し器具に関する原告の意匠権を被告が侵害したとして、被告製品の製造・販売等の差止と被告製品の廃棄を求め、当審において損害賠償を追加請求した事案である。

当事者の主張は、次に付加・訂正する他は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決一〇頁末行「D’」を「2’」に、同一三頁二行目「下線」を「下縁」に、同一四頁五行目「の下端」を「1’の下端」に各改める。

2  同一六頁二行目、同二二頁五行目、同二四頁六行目(二箇所)の各「下部支柱」の次にいずれも「1’」を加える。

3  同二三頁三行目「下線」を「下縁」に、一〇行目「E’」を「8’」に、同二四頁四行目「C’」を「7’」に各改める。

二  被告の当審主張

1  本件意匠Aやイ号意匠に係る物品は、折り畳み式「物干し器具」として通常は室内に収納され、雨天時や夜間などに主として室内で洗濯物を干す場合に使用されるものであるから、収納のための折り畳みや使用のための拡開が頻繁に繰り返される商品である。このような収納と使用の簡便さという機能面に格別の意義を有する外観上の構成は、「機能上の要部」として需要者が重視する点である。

したがって、本件意匠Aとイ号意匠との対比においては、折り畳み方法の相違に由来する集束盤の形状の違いや、物干し杆の上下移動と固定を簡単に行うための集束固定機構部の有無・形状(操作ボックスや操作ボタンの有無等)を「意匠の要部」として重視すべきである。

2  折り畳み式「物干し器具」に関しては、すでに大正期から国外で特許が存在し、昭和四〇年にはその外国カタログが特許庁に収集されているうえ、昭和四九年頃からはわが国でもこれに関する種々の考案や意匠が提案されている。このように既に公知の態様は意匠の要部と評価することはできず、それが可能なのは公知部分が両意匠間の差異となる場合のみである。

折り畳み式「物干し器具」についていえば、物干し杆が一段・二段・三段の各意匠は段構成の相違によって各別に登録されているから、このような段構成は公知であっても意匠の要部となる態様である。一方、物干し部に「つ」の字形クリップを有する構成や物干し杆を傾斜させる構成はすでに別に登録されている公知の構成であるから、これらの点を意匠の類否判断において重視することはできない。

3  本件類似意匠は、本件意匠Aと比較すると、上段物干し部の態様が異なるだけで他の部位はすべて同一である。他方、本件類似意匠の支柱上端に「?」状吊り掛け部を突設した点のみが異なり他の部位はすべて同一の意匠が、本件意匠Aとは非類似として別登録されている。このことからみると、本件類似意匠以上に本件意匠Aと差異のある意匠は本件意匠Aの類似範囲にあるとはいえない。

4  本件意匠A・Bにおいて、複数の棒状脚からなる脚部の上に支柱が直立し、該支柱上に二段の放射状に拡開する杆を有する物干し部ないしはハンガー掛け部が設けられているという基本的構成態様は、本件意匠A・Bの出願前に公知であり重視し得ないから、本件意匠A・Bの要部は具体的な構成態様にある。

そして、機能上の要部や脚部の構成は意匠の要部となり、公知の形状は要部とならないとの前提で観察すると、

(一) 本件意匠Aは、▲1▼物干し杆・掛け杆の折り畳み方法に出来する各部の構成に新規な特徴がある ▲2▼先端が「つ」の字形クリップに成形された物干し杆が、先端が支柱側よりやや高くなるように緩やかな放射状をもって設けられている構成は、公知の態様であって要部とならない ▲3▼脚部は、脚が細い角柱状で、小さな略半円形の「舌」状の板体で左右から挟み込まれて基部に取り付けられ、脚部全体が意匠全体と比較して小さく狭い拡開幅に設けられている点が要部となると判断される。

これに対し、イ号意匠は、▲1▼物干し杆・掛け杆の折り畳み方法に由来する各部の構成は、本件意匠Aと全く異なった独自の新規な態様である ▲2▼物干し杆の根元部に設けられた上向き「つ」の字形クリップは、本件意匠Aの出願前にも本件意匠Aにも存在しない態様である ▲3▼脚部は、伏せた大椀の中から脚が三方に放射状に伸び、その断面は逆U字形で付け根が太く徐々に先細になって先端が猫足状に形成されたもので、新規な構成である点において、本件意匠Aとことごとく異なっている。

(二) 本件意匠Bは、▲1▼物干し杆・掛け杆の下方に設けられた短円筒部材12・13・13’の構成に新規な特徴がある ▲2▼先端が「つ」の字形クリップに成形された物干し杆が、先端が支柱側よりやや高くなるように緩やかな放射状をもって設けられている構成や、物干し杆の根元部に上向き「つ」の字形クリップが設けられている構成は、公知の態様であって要部とならない ▲3▼脚部は、脚が特に細長い丸棒状で、基部が「ミッキーマウスの耳」を連想させる独特の形態であって、脚部全体が意匠全体と比較して非常に大きい拡開幅に設けられている点が要部となると判断される。

これに対し、ロ号意匠は、▲1▼物干し杆・掛け杆の折り畳み方法に由来する各部の構成は、本件意匠Bと全く異なった独自の新規な態様である ▲2▼物干し杆の態様に共通感はあるが、この構成は公知であって重視すべきではない ▲3▼脚部はイ号意匠の前記▲3▼と同一である。

したがって、ロ号意匠は、▲2▼の点で本件意匠Bと共通するものの、▲1▼▲3▼の点で顕著に異なっている。特にロ号意匠の脚部は、しっかりとした剛性感と安定感を感じさせ、脚自体に木製家具などに見受けられるような有機的な態様を導入した独自性の高い造形とされているのであり、本件意匠Bの脚部が華客で繊細な態様であるのと比較して、それのみで別異ともいえる顕著な差異である。

三  原告の当審主張

1  元来意匠の保護は、意匠の創作の保護の面と不正競争防止の面の両面を有しているが、その具体的内容は、登録意匠が創出する外観から受ける美感や印象を保護するとともに、取引の場において右外観から受ける美感や印象を同じくする二つの物品を一般需要者(日用品にあっては消費者)が誤認混同することを防止するというものである。

したがって、意匠の類否の判断は、右意匠保護の目的に沿って、当該意匠の個々の構成要素に捕らわれることなく、意匠を全体として考察し、一般需要者(消費者)が誤認混同するか否かという観点から、一般需要者(消費者一の注意を強く引く部分を当該意匠の要部と認定して、対象意匠が右要部と共通する構成を有するか否かを基準としてなされるべきである。

(一) 右の観点を踏まえ、公知意匠を斟酌すれば、本件意匠Aの要部は、▲1▼上段物干し杆は先端が支柱側よりやや高くなるように緩やかな傾斜をもって放射状に配置されていること ▲2▼下段物干し杆は先端が「つ」の字形クリップに成形され、先端が支柱側よりやや高くなるように緩やかな傾斜をもって放射状に配置されていること ▲3▼下段物干し杆は上段物干し杆より長いこと、にあるということができる。

仮に、脚部も要部たり得るとしても、物干し器具においては、一般需要者は物干し杆の形状にこそ最も強く注意を引かれるのであり、特に二段式以上の物干し器具にあっては脚部は意匠全体の下部に位置し目立たないものであるから、要部としても二次的なものと解すべきである。

(二) また、本件意匠Bの要部は、▲1▼細長い丸棒状の支柱、下縁部にピンチを取り付けた上段物干し杆、先端が「つ」の字形クリップに成型された中段・下段の各物干し杆及び脚部の組合せによる基本構成を有していること ▲2▼上段・中段・下段の各物干し杆は先端がやや高くなるように緩やかな傾斜をもって放射状に設けられていること ▲3▼脚部は脚部集束盤からステーが拡開規制杵を伴わずに放射状に複数設けられていること、にあるということができる。

2  原告は、被告の故意又は過失による本件意匠権の侵害行為により、次の損害を被った。

(一) 被告の得た利益

被告は、平成五年五月頃からイ号・ロ号物件をスーパーマーケット等量販店を中心とする全国の小売販売店約四〇〇店に販売している。

(1) 販売数量

販売数量は一店舗当たり各物件につき月間に少なくとも一〇本以上であるから、月間販売数は各物件につき四〇〇〇本以上である。

(2) 販売価格と年間売上額

販売価格は一個当たりイ号物件が一六〇〇円・ロ号物件が二〇〇〇円であるから、年間売上額はイ号物件が七六八〇万円・ロ号物件が九六〇〇万円である。

イ号物件 1600円×4000個×12月=7680万円

ロ号物件 2000円×4000個×12月=9600万円

(3) 粗利益率を三〇%とすると、被告の年間利益額はイ号物件が二三〇四万円・ロ号物件が二八八〇万円となる。

(二) 原告の得べかりし利益

原告は、本件意匠権A・Bの各実施品を平成元年から販売し、平成二年・三年には年間四万本以上を販売していたが、被告の侵害行為により平成五年五月頃から販売数量が激減した。右侵害行為がなければ被告と同額の利益を得られたものであるから、損害賠償として右同額を求めるところ、原告の損害額は過去三年間に遡って計算すると計一億五五五二万円となる。

(三) よって、原告は、被告に対し、損害賠償として右損害額の内金六〇〇〇万円とこれに対する本件附帯控訴状送達の日の翌日一平成九年八月二〇日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  証拠

原審及び当審記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  本件意匠権A・B及び本件類似意匠の登録、本件意匠A・B・本件類似意匠の各構成、被告によるイ号・ロ号物件の製造販売、イ号・ロ号意匠の各構成については、次に訂正する他は、原判決理由説示中の一ないし五・七(原判決四六頁二行目から同四九頁四行目まで、同六六頁三行目から同末行まで)に記載のとおりであるから、これを弓用する。

1  原判決四六頁八行目「▲1▼▲2▼」の次に「(乙二)、弁論の全趣旨)」を加える。

2  同四七頁末行「(また」を「(折り畳んだ状態の参考図斜視図においても右各集束盤が摺動可能であるとまでは示されていない。また、」に改める。

二  本件意匠Aとイ号意匠との類否判断

1  本件意匠Aとイ号意匠との対比

(一) 基本的構成態様

本件意匠Aは、細長い丸棒状の上部支柱と下部支柱とをまっすぐ繋ぎ合わせた支柱部、支柱部の上端に外方に向けてほぼ平面放射状に開いた上段物干し杆とそれを支える集束盤、支柱部の中間部に外方に向けてほぼ平面放射状に開いた下段物干し杆とそれを支える集束盤、支柱部の下端に集束盤とそれを介して斜め下方に放射状に開く複数のステーを有する脚部により構成される(原判決六頁初行から同七頁八行目まで参照)。

これに対し、イ号意匠も、前記構成(原判決一二頁二行目から同一五頁二行目まで参照)からすれば、基本的構成態様は本件意匠Aと同様であると認められる。

(二) 具体的構成態様

(1) 本件意匠A・本件類似意匠の各具体的構成態様は次のとおりである(原判決六頁四行目から同九頁五行目まで参照)。すなわち、

ア 本件意匠Aの具体的構成は、

▲1▼細長い丸棒状の上部支柱1と下部支柱1’が、中間部に設けられた平面視において円環状の下段集束盤2の中心部において、真直ぐに継ぎ合わされ

▲2▼上部支柱1の上端に設けられた平面視において円環状の上段集束盤3には、細長い平板状の上段物干し杆4が、その先端が支柱側よりやや高くなるように緩やかな傾斜をもって放射状に三本設けられ

▲3▼右上段物干し杆4にはハンガー掛合用の孔5が一〇個穿設されており

▲4▼下段集束盤2には、先端が「つ」の字形クリップ7に成型された細長い平板状の下段物干し杆6が、その先端が支柱側よりやや高くなるように緩やかな傾斜をもって放射状に一二本設けられ

▲5▼下部支柱、1の下端付近に支柱を嵌合するための脚部集束盤10が設けられ、同集束盤に上端を枢支された丸棒状のステー9を斜め下方へ放射状に四本設けた脚部8

からなる。

イ 本件類似意匠の具体的構成は前記のとおりである(原判決八頁初行から同九頁五行目まで参照)。すなわち、

▲1▼上段物干し杆4が一二本であり、▲2▼その物干し杆4の下側にピンチ(洗濯ばさみ)5が各杆に二個ずつ吊り下げられている点を除けば、本件意匠Aと同様である。

(2) これに対し、イ号意匠の具体的構成態様は次のとおりである(原判決一二頁四行目から同一五頁二行目まで参照)。すなわち、

▲1▼ 細長い丸棒状の上部支柱1と下部支柱1’が直接中間部において真直ぐに継ぎ合わされ

▲2▼ 上部支柱1の上端には、円筒状の支持体12によって支柱に嵌合される平面視において円環状の上段集束盤3が設けられ

▲3▼ 右上段集束盤3には、先端に孔10(円形)を穿設し、先端と基端とを除く主要部分が上縁の該横板部4aと該横板部4aの下面中央に突設された縦板部4bとを一体に有する断面丁字形状の上段部物干し杆4が、先端が支柱側よりやや高くなるように緩やかな傾斜をもって放射状に八本設けられ

▲4▼ 右上段物干し杆の下縁部には、下縁稜線から半円弧状に突出した二個のピンチ係止フックが設けられ、各フックにはそれぞれピンチ5が吊り下げられており

▲5▼ 支柱には、上記上段集束盤3と脚部8との間に、平面視において円環状の下段集束盤2が上下方向に摺動可能に嵌合され、該下段集束盤2の下部には外周の一部が支柱の側方に突出した形状のストッパー13が係着され、同集束盤には「先端が「つ」の字形のクリップ7に成型され、該先端と基端とを除く主要部分が上縁の横板部6aと該横板部6aの下面中央に突設された縦板部6bとが一体となった断面丁字形状の下段物干し杆6が、先端が支柱側よりやや高くなるように緩やかな傾斜をもって放射状に一六本設けられ、下段物干し杆6の基端部で支柱と集束盤の結合部近傍には、「つ」の字形の洗濯物止めクリップ11がそれぞれ設けられており

▲6▼ 下部支柱1’の下端には脚部8が結合され、該脚部8は、下部支柱1’の下端を受容する円筒状の支持体14と上部に椀型状の蓋を有する脚部集束盤15、及び該脚部集束盤15に上端部を枢支されて斜め下方へ放射状に延在する三本のステー9で構成され、該ステー9は、断面逆U字状であって、外側の湾曲部9aと該湾曲部9aの両側に連なり、相対向する平行な側面部9b・9bとを一体に有し、該側面部9b・9bは脚部集束盤15との枢支部である上部側の幅が広く、かつ下部に行くに従って幅が狭くなる形状であって、下端部には円弧状に突出する接地部17が形成されてなる。

(3) 右の対比から明らかなように、本件意匠A及び本件類似意匠とイ号意匠とは、次の相違点を除けば、具体的構成態様は共通である。

▲1▼ 支柱の結合方法が、本件意匠Aでは上部支柱と下部支柱が下段、集束盤を介して継ぎ合わされているため継ぎ目が隠れているのに対し、イ号意匠では直接中間部で継ぎ合わされているため継ぎ目が現われている。

▲2▼ 上段物干し杆が、本件意匠Aでは断面が矩形状で枠内に口形状(短冊形)のハンガー掛止孔が一〇個穿設され、放射状に設けられた杵の本数は三本であるのに対し、イ号意匠では断面がT字形状で、杵の下縁稜線から半円弧状に突出したピンチ係止フックが二個設けられ、各フックの先端にはピンチが吊り下げられており、杆の先端にのみ孔一円形一が穿設されていて、杆の本数は八本である。

▲3▼ 上段集束盤が、本件意匠Aでは上段物干し杆との接合のための腕部が突出して、平面視において三つ又状となり、物干し杆は右腕部に係合するものであるのに対し、イ号意匠では上段物干し杆が円形の集束盤に切り込み形成された溝部にして接合されており、集束盤は平面視において円環状である。

▲4▼ 下段物干し杆、本件意匠Aでは断面が矩形状でその本数が一二本であるのに対イ号意匠では断面が丁字形状でその本数が一六本であり、支柱側上縁部において集束盤の結合部近傍には、「つ」の字形の洗濯物止めクリップが設けられている。

▲5▼ 下段集束盤が、本件意匠Aでは上部支柱と下部支柱とをともに受容するため上部と下部がそれぞれ円筒状に突出しているのに対し、イ号意匠では上部への突出部はなく、下部には外周の一部が側方に突出(ボタン部)した円筒状のストッパーが係着されている。

▲6▼ 脚部集束盤が、本件意匠Aではステーとの接合部が突出し、底面視において十字形状であるのに対し、イ号意匠では上部が逆椀型状で、下部においてステーと接合しており、接合部分は底面視において三つ又状となっている。

▲7▼ ステーが、本件意匠Aでは丸棒状で太さは支柱の約二分の一であり、集束盤との接合部から先端部に至るまで同一の太さで、本数は四本であるのに対し、イ号意匠では断面逆U字状で、太さは集束盤との接合部付近では支柱より太く先端にいくに従って次第に細くなり、先端部分ではあたかも猫足のごとく円弧状に形成されている。

2  本件意匠Aとイ号意匠の類否

以上の対比に基き、本件意匠Aとイ号意匠が類似するか否かにつき判断する。

(一) 登録意匠と類似する意匠との類否判断は、当該物品の用途・機能・使用態様等を考慮しつつ、各意匠の基本的構成態様と具体的構成態様における特徴を抽出し、それらを参考としながら各意匠の要部を認定してなすべきであり、右要部を認定するにあたっては、公知意匠や類似意匠を参酌し、物品の形態・用途等からみてその取引過程ないし使用状態において取引者・需要者の目に付き易く、原則として公知意匠にない新規で視る者の注意を強く引きつける部分を重視してなすべきである。

(二) ところで、本件意匠Aやイ号意匠に係る物品は折り畳み式「物干し器具」であるが、収納時には折り畳み、使用時に拡開する方式の物干し器であって、脚部と支柱を有し支柱に物干し杆を設けた形態のものは、本件意匠Aの出願以前の昭和四〇年七月二一日に特許庁資料館受入の外国カタログ(乙五三)や昭和五四年一月三〇日登録の物干し器具(登録番号五〇〇八六二号、乙六)にすでに採用されていて、その基本的構成態様は本件意匠Aのそれと同一であるから、本件意匠Aの基本的構成態様自体はありふれたものとして需要者の注意を強く引くものではなく意匠の要部ということはできない。

したがって、本件意匠Aの要部はその具体的構成態様の中にあるといわなければならない。

(三) そして、右折り畳み式「物干し器具」は、通常は室内等に収納され、雨天時や夜間などに主として室内等で洗濯物を干す目的に使用されるものであるから、これを視る者は、脚部を下にして直立し拡開した状態のものを至近距離で正面からあるいはやや上方ないしは下方から斜めに視ることが多く、加えて収納時に折り畳んだ状態を視ることとなる。したがって、本件意匠A及びイ号意匠においては、右各方向から観察した形状について視る者の注意を強く引く点を意匠の要部というべきである。

(四) そこで、前記認定の各具体的構成態様に照らして本件意匠Aとイ号意匠の類否を検討すると、

(1) 両者の前記相違点のうち、

▲1▼上部支柱と下部支柱の継ぎ目の点は、継ぎ目が支柱の表面に現われていても横一線として見えるにすぎないから、意匠として視る者の注意を引くものとは到底いえない。

▲2▼上段物干し杆の断面形状の差異は、至近距離から視る者にとってかなり美感に影響を及ぼす点であって、本件意匠Aの矩形状は剛性で安定感を与えるのに対し、イ号意匠のT字形状は繊細でスマートな感じを与えるから、視る者に相当異なる美感を生じさせる要部ということができる。

また、本件意匠Aあるいは本件類似意匠ではハンガー掛止孔(短冊形)あるいはピンチ係止フックが直接物干し杆に穿設されているのに対し、イ号意匠ではピンチ係止フックが下縁から半円弧状に突き出す形で形成され、杆の先端に孔(円形)が穿設されているから、右形状も視る者にかなり異なる印象を与える要部と認められる。

▲3▼ 上段集束盤の差異は、本件意匠Aでは物干し杆との接合部が腕として突出して正面視でいわば小さな羽を広げた印象があるのに対し、イ号意匠では円形であってそのような印象がなく、一方、上段集東盤の上部先端が、イ号意匠では平面視で円環状・正面視で円冠状(原判決別紙(三)の(1))であって、見た目に滑らかさが感じられるのに対し、本件意匠Aではそのような印象がないから、いずれもかなり異なる美感を起こさせる要部と認められる。

▲4▼ 下段物干し杆に関しては、断面の差異については前記▲2▼と同様であるが、物干し杆の本数の差異は美感に顕著な差異をもたらすものではなく、また、集束盤の結合部近傍の「つ」の字形クリップの存在については、昭和五一年六月一〇日公開の実用新案「洗たく物干具用合成樹脂製干杆」においてすでに公知となっていたことが認められる(乙六六)から、要部として強く視る者の注意を引くほどの差異があるとはいえない。

▲5▼ 下段集束盤の差異は、本件意匠Aでは上部と下部がそれぞれ円筒状に突出していて支柱との間に強い接着感を与えるのに対し、イ号意匠では上部に突出部がない代わりに下部にストッパーが係着されているのみですっきりした印象を与え、かつ、右ストッパーは摺動可能な下段集束盤を固定するための機能に由来する突出部のある独特の形状を有しているから、美感上の差異も無視できないというべきである。

▲6▼ 脚部集束盤の差異は、本件意匠Aでは接合部が突出しているのに対し、イ号意匠では逆椀型状の蓋で覆われている上、ステーも本件意匠Aでは丸棒状で均一の太さであるのに対し、イ号意匠では断面逆U字状で先端にいくにつれて細くなり先端が円弧状になっている点で全体に滑らかで安定感のある印象を与えるから、美感上相当な差異を感じさせるものということができる。

(2) 他方、両者の共通点についてみると、

▲1▼支柱が丸棒状で上部と下部の支柱からなること ▲2▼上段集束盤に放射状に開かれた上段物干し杆が嵌合されていること ▲3▼上段物干し杆にはピンチ係止フックが設けられピンチが吊り下げられていること(本件類似意匠との共通点) ▲4▼下段集束盤に放射状に開かれた下段物干し杆が嵌合されていること ▲5▼下段物干し杆はその先端が「つ」の字形クリップに成型され、かつ、やや上方に緩やかに傾斜していること ▲6▼脚部集束盤に支柱が嵌合され、かつ、斜め下方に放射状に開かれたステトをも枢支していることの各点において共通することは前記のとおりである。

しかし、右共通点のうち▲1▼▲2▼▲4▼▲6▼は、両者の基本的構成態様に等しく、これらがすでに公知でありふれた形状であることは前記のとおりであるから、右各点を両者の要部ということはできない。

そして、右▲5▼のうち物干し杆の先端が「つ」の字形クリップに成型されている点については、昭和五一年六月一〇日公開の実用新案「洗たく物干具用合成樹脂製干杆」(乙六六)や昭和五二年一二月六日公開の実用新案「組物干具」(乙六七)においてすでに公知となっており、また物干し杆がやや上方に緩やかに傾斜している点は、昭和五四年二月二七日及び同年三月二七日各登録の意匠「物干し器具」(乙八、六八)においてすでに公知となっていたことが認められるから、これらもありふれた形状であり重視することはできない。

したがって、右▲3▼の上段物干し杆にピンチをつり下げた形態が双方に共通の要部ということができる。

(3) してみると、本件意匠Aとイ号意匠とは、(ア)上段物干し杆の断面とピンチ掛止フックの各形状 (イ)上段集束盤の形状 (ウ)下段物干し杆の断面形状 (エ)下段集束盤とストッパーの各形状 (オ)脚部集束盤とステーの各形状において要部が相違し、(カ)上段物干し杆にピンチをつり下げた形状において要部が共通するものと認められる。

ところで、原告は、本件類似意匠の支柱上端に先端が鈎型「?」をしたステッキ状の吊り掛け部を突設した点においてのみ本件類似意匠と異なる構成の「物干し器」につき独立した意匠権の登録を出願し、昭和六三年二月九日付けでその登録一登録番号第七三三五一八号)を受けたこと、さらに、本件類似意匠の脚部の集束盤の上に接して正面視逆台形で平面視円環状の水盤状を設けた点においてのみ本件類似意匠と異なる構成の「物干し器具」につき独立した意匠権の登録を出願し、昭和六三年一一月一五日付けでその登録(登録番号第七五五八九一号)を受けたことが認められる(乙二二、二六)。

右独立して登録された各意匠の内容と、本件意匠Aとイ号意匠との構成上の相違点・共通点とを比較対照するとき、イ号意匠における脚部の構成の差異は需要者にとって美感上相当大きな比重を占めるものというべきであって、それに加えて前記相違点をも斟酌すれば、前記共通点の存在にもかかわらず、需要者が折り畳み式「物干し器具」を購入するにあたり本件意匠Aとイ号意匠に係る各商品を混同するおそれはないと認められるから、イ号意匠は本件意匠Aとは類似しないものと認めるのが相当である。

なお、被告は、平成四年一二月二五日、イ号意匠のうち上段・下干物干し杆を水平状にした点においてのみ相違する形態の「物干し器」につき独立した意匠権の登録を出願し、平成六年六月八日意匠登録一登録番号第九〇五七七七号一を受け、、次いで、平成九年に右登録意匠とイ号意匠とが類似するとの判定を求めて特許庁に対し判定請求をした結果、右請求どおりの判定を受けたことが認められる(乙三の一ないし三、四二、一一五、一一六)。

三  本件意匠Bとロ号意匠との類否判断

1  本件意匠Bとロ号意匠との対比

(一) 基本的構成態様

本件意匠Bは、細長い丸棒状の支柱、支柱上端部に外方に向けてほぼ平面放射状に開いた上段物干し杆とそれを支える集束盤、支柱の中問部に外方に向けてほぼ平面放射状に開いた中段・下段の物干し杆とそれを支える二組の集束盤、支柱下端部に集束盤とそれを介して斜下方に放射状に開く複数のステーを有する脚部により構成される(原判決九頁九行目から同一一頁七行目まで参照)。

これに対し、ロ号意匠も、前記構成一原判決二二頁五行目から同二五頁四行目まで参照)からすれば、基本的構成態様は本件意匠Bと同様であると認められる。

(二) 具体的構成態様

(1) 本件意匠Bの具体的構成態様は次のとおりである(原判決九頁九行目から同一一頁七行目まで、同四七頁初行から同四八頁末行まで参照)。すなわち、

▲1▼ 細長い丸棒状の支柱1の上端付近に平面視において円環状の上段集束盤3が嵌合され、その下部に円筒状のストッパー12が設けられ

▲2▼ 上段集束盤3には、先端に孔5を穿設し、先端と基端とを除く主要部分の断面がT字形状の上段物干し杆4が、先端が支柱側よりやや高くなる様に緩やかな傾斜をもって放射状に一〇本設けられ

▲3▼ 右上段物干し杆4の下縁部にはU字形状に突出した二個のピンチ係止フックが設けられ、各フックにはそれぞれピンチ6が吊り下げられており

▲4▼ 支柱1の中間部には、平面視において円環状の中段及び下段集束盤2・2’が嵌合され、それぞれその下部に円筒状のストッパー13・13’が設けられて、中段、下段の各集束盤2・2’にはそれぞれ先端が「つ」の字形のクリップ8・8’に成型され、支柱側上縁部に洗濯止めクリップ9・9’を取り付けた断面がT字形の細長い物干し杆7・7’が先端が支柱側よりやや高くなる様に緩やかな傾斜を以って放射状に二〇本設けられ

▲5▼ 支柱1の下端に支柱を嵌合するための円筒状の支持体性を備えた脚部集束盤15が設けられ、同集束盤に上端を枢支された丸棒状のステー11を斜め方向へ放射状に三本設けた脚部10からなる。

(2) これに対し、ロ号意匠の具体的構成態様は次のとおりである(原判決二二頁五行目から同二五頁四行目まで参照)。すなわち、

▲1▼ 細長い丸棒状の上部支柱と下部支柱1’が直接中間部において真直に継ぎ合わされ

▲2▼ 上部支柱1の上端には、円筒状の支持体12によって支柱に嵌合される、平面視において円環状の上段集束盤3が設けられ

▲3▼ 右上段集束盤3には、先端に孔5を穿設し、先端と基端とを除く主要部分が上縁の横板部4aと該横板部4aの下面中央に突設された縦板部4bとを一体に有する断面T字形状の上段部物干し杆4が、先端が支柱側よりやや高くなるように緩やかな傾斜をもって放射状に八本設けられ

▲4▼ 右上段物干し杆の下縁部には、下縁稜線から半円弧状に突出した二個のピンチ係止フックが設けられ、各フックにはそれぞれピンチ6が吊り下げられており

▲5▼ 支柱には上段集束盤3と脚部との間に、平面視において円環状の中段及び下段集束盤2・2’が上下方向に摺動可能に嵌合され、該各集束盤2・2’の下部には外周の一部が支柱の側方に突出した形状のストッパー13・13’が係着され、同各集束盤には先端が「つ」の字形のクリップ8・8’に形成され、該先端と基端とを除く主要部分が上縁の横板部7a・7’aと該横板部7a・7aの下面中央に突設された縦板部7b・7’bとが一体となった断面T字形状の中段及び下段部物干し杆7・7’が先端が支柱側よりやや高くなるように緩やかな傾斜をもって放射状に一六本設けられ、中段及び下段物干し杆7・7’の基端部で、支柱と集束盤の結合部近傍には、「つ」の字形の洗濯物止めクリップ9・9’がそれぞれ設けられており

▲6▼ 下部支柱1’の下端には脚部10が結合され、該脚部10は下部支柱1の下端を受容する円筒状の支持体腔と上部に逆椀型状の蓋を有する脚部集束盤15及び該脚部集束盤15に上端部を枢支されて斜め下方へ放射状に延在する三本のステー11で構成され、該ステー11は断面逆U字状であって、外側の湾曲部11と該湾曲部11aの両側に連なり、相対向する平行な側面部11b・11bとを一体に有し、該側面部11b・11bは脚部集束盤15との枢支部である上部側の幅が広く、かつ下部に行くにしたがって幅が狭くなる形状であって、下端部には円弧状に突出する接地部17が形成されてなる。

(3) 右の対比から明らかなように、本件意匠Bとロ号意匠とは、次の相違点を除けば、具体的構成態様は共通である。

▲1▼支柱が、本件意匠Bでは一本であるのに対し、ロ号意匠では上部支柱と下部支柱からなり、その継ぎ目が中間部分に現われている。

▲2▼上段物干し杆が、本件意匠Bでは、下縁に沿って設けられたピンチ係止フックの開口部が物干し杆先端側に形成され、先端部のハンガー係止孔5が上方に突出して設けられ、杆の本数は一〇本であるのに対し、ロ号意匠では、ピンチ係止フックの開口部は支柱側に形成され、先端部のハンガー係止孔は杵の上縁及び下縁の延長線上に設けられており、杆の本数は八本である。

▲3▼ 上段集束盤が、本件意匠Bではその上部は上段物干し杆の接合部よりもさらに上方に円筒状に突出し、上端部には球面上のキャップが嵌着されており、その下部はほぼ中央部に段差を設けた円筒状に形成されているが、ロ号意匠ではその上部に突出部はなく、下部に設けられた円筒部にも段差はない。

▲4▼ 中段及び下段物干し杆が、本件意匠Bではそれぞれ二〇本であるのに対し、ロ号意匠ではその本数はそれぞれ一六本である。

▲5▼ 中段及び下段集束盤が、本件意匠Βではその下部はほぼ中央部に段差を設けた円筒状に形成されているが、ロ号意匠ではその下部に円筒部は存在せず、かわりに外周の一部が側方に突出した円筒状のストッパーが係着されている。

▲6▼ 脚部集束盤が、本件意匠Bではステーとの接合部が突出しているのに対し、ロ号意匠では上部が逆椀形状の蓋で覆われ下部においてステーと接合している。

▲7▼ ステーが、本件意匠Bでは丸棒状であり、太さが支柱の約三分の二で脚部集束盤との接合部から先端部に至るまで一定であるのに対し、ロ号意匠では断面逆U字状であり、太さは集束盤との接合部付近では支柱より太く、先端にいくにしたがって次第に細くなり、先端部分ではあたかも猫足のごとく円弧状に形成されている。

2  本件意匠Bとロ号意匠の類否

以上の対比に基き、本件意匠Bとロ号意匠が類似するか否かにつき判断する。

ところで、本件意匠Bやロ号意匠に係る折り畳み式三段の「物干し器具」で脚部と支柱を有し支柱に上段・中段・下段の各物干し杆を設けた形態のものは、本件意匠Bの出願以前にすでに昭和五四年六月一日公開の実用新案「伸縮式三段立体物干し器」に採用されていることが認められる(乙一一〇)から、右の構成自体は公知のものとして意匠の要部ということはできない。

したがって、本件意匠Bの要部は主として具体的構成態様の中にあるといわなければならない。

そこで、前記二2(一)(三)の見地に従い、前記認定の各具体的構成態様に照らして検討するに、

(一) 両者の相違点のうち、

(1) 上部支柱と下部支柱との継ぎ目は、美感上、視る者の注意を引くものではない。

(2) 上段物干し杆に形成されたピンチ係止フックの位置と形状の差異は微少であるから、視る者の美感に与える影響をそれほど重視することはできない。

(3) 上段集束盤の差異は、本件意匠Bでは円筒状の突出部が目立つのに対し、ロ号意匠では正面視円冠状(原判決別紙(三)の(2)参照)で見た目に滑らかさが感じられるから、美感上かなり異なる印象を与える要部と認められる。

(4) 中段・下段の物干し杆の本数の差異は美感に顕著な差異をもたらすものではない。

(5) 中段・下段の各集束盤の差異は、本件意匠Bでは二段に段差のある円筒状で強固で安定感を視る者に与えるのに対し、ロ号意匠ではストッパーが係着されているのみですっきりした印象を与え、かつ、右ストッパーは摺動可能な各集束盤を固定するための機能に由来する独特の形状を有しているから、美感上の差異も無視できない。

(6) 脚部集束盤とステーの差異は、前記イ号意匠に関するもの(前記二2(四)(1)▲6▼)と同様である。

(二) 他方、両者の共通点についてみると、

▲1▼支柱が丸棒状であること ▲2▼上段集束盤に、断面T字状の上段物干し杆がやや上方に緩やかに傾斜した放射状に開かれて嵌合されていること ▲3▼上段物干し杆にはピンチ係止フックが設けられピンチが吊り下げられていること ▲4▼中段・下段の各集束盤には、下部にそれぞれストッパーが設けられ、かつ、それぞれ先端が「つ」の字形クリップに形成され基端に洗濯物止めクリップが設けられた中段・下段各物干し杆が嵌合されていること ▲5▼中段・下段の各物干し杆は、断面がいずれもT字状で、やや上方に緩やかに傾斜した放射状に開かれていること ▲6▼脚部は支柱を嵌合する円筒状の支持体と脚部集束盤とステーとからなること ▲7▼ステーは上端を脚部集束盤に枢支されて斜め下方に放射状に開かれていること、の各点において共通することは前記のとおりである。

しかし、右共通点のうち▲1▼はありふれた形状であって美感上格別の意義を有するものではない。また、▲4▼のうち各物干し杆の先端が「つ」の字形クリップに形成され、基端に洗濯物止めクリップが設けられている点や、▲5▼のうち中段・下段の各物干し杆がやや上方に緩やかに傾斜した放射状に開かれている点は、すでに公知となっていたことは前記二2(四)(2)のとおりであるから、ありふれた形状であり美感上重視することはできない。

したがって、残る部分が本件意匠Bとロ号意匠に共通する要部ということができる。

(三) してみると、本件意匠Bとロ号意匠とは、(ア)上段・中段・下段の各集束盤とストッパーの形状 (イ)脚部集束盤とステーの形状において要部が相違し、(ウ)断面T字状の物干し杆が上段・中段・下段の各集束盤に嵌合されている形状 (エ)上段物干し杆にピンチ係止フックを設け、ピンチを吊り下げた形状 (オ)脚部が支持体と集束盤とステーより成り、ステーが斜め下方に放射状に開かれている形状において要部が共通するものと認められる。

そして、右相違点と共通点を「物干し器具」という物品の用途・機能等に照らして比較し、需要者が至近距離から全体的に観察したとき、右特徴のうち脚部の形態と上段・中段・下段の各ストッパーの形態が視る者にとって最も注意を引き、右共通点を超えて美感上相当の差異を感じる点であると判断される。

したがって、本件意匠Bとロ号意匠に係る商品を対比したとき、需要者が混同を生じるおそれはないと認められる、から、ロ号意匠は本件意匠Bに類似しないものと認めるのが相当である。

四  以上の次第で、原告の本訴請求(当審追加請求を含む)は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決を取り消し、当審における追加請求(附帯控訴)を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成一〇年三月一一日)

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄)

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